2007年度

第27回大会

日時 2007年11月17日(土) 10:00~17:00
場所 上智大学 四谷キャンパス 11号館5階511室
〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町 7-1
交通 JR中央線、東京メトロ丸ノ内線・南北線/四ッ谷駅
麹町口・赤坂口から徒歩5分

受 付 (9:30~10:00)

開会の辞(10:00)

日本女子大学名誉教授 出淵 敬子

Ⅰ 研究発表(10:00~12:10)

司会 東京学芸大学非常勤講師 加藤 めぐみ

  • 誰が語るのか?
    ― 『幕間』における言語の権力関係
     東京大学大学院生 小澤 身和子
  • 「生かさなければならない身体」
    ― エリザベス・ボウエンのThe Hotelにおける拒食症の表象
     慶応義塾大学大学院生 上田 敦子

司会 広島市立大学准教授 土井 悠子

  • 労働者教育協会」でのヴァージニア・ウルフの講演
    ― 「斜塔」における聴衆/読者の意義と重要性
     東京理科大学非常勤講師 吉田 えりか
  • 『波』における神秘体 ― スピリチュアリズムと科学言説
     東京工業大学非常勤講師 近藤 章子

Ⅱ 総会(13:20~13:40)

司会 大手前大学教授 太田 素子
会計報告、編集委員会報告、次期大会、その他

Ⅲ シンポジウム (13:50~17:00)

National Culture と(Step-)Daughterたち ― 英国戦間期女性作家を再考する

司会 東京学芸大学准教授 大田 信良
講師 青山学院大学准教授 麻生 えりか
講師 姫路獨協大学准教授 廣田 園子
講師 日本女子大学非常勤講師 前 協子

閉会の辞 (17:00)

会長 都留文科大学教授 窪田 憲子

懇親会(18:00~20:00)

会場 四ッ谷三丁目 Fairfax Grill (http://www.cardenas.co.jp/fairfax/)
〒106-0006 東京都新宿区舟町8 (Tel: 03-3353-6540)
会費 6000円(学生 3500円)

誰が語るのか? ― 『幕間』における言語の権力関係

東京大学大学院生 小澤 身和子

今回の発表ではウルフ作品をグローバリゼーション等の問題と照らし合わせて読む可能性を提示しながら、『幕間』に描かれる「帝国」について考えてみたい。ラ・トローブというアウトローがパジェントを演出することで得る権力を考察することで、衰退する大英帝国とその未来へ対するウルフの展望を探りたい。ウルフ作品をモダニズムやフェミニズムというカテゴリーに当てはめて読む研究がテキストの多義性を制約していると批判される中で、『幕間』という複雑なテキストを、単に既存の文学形式や男/女の二項対立を逸脱し解釈の可能性を示す作品として捉えるだけではなく、政治的観点から考察することで作品の抱える矛盾に新しい解釈を与えたいと考えている。

参考文献

  • Pamela L. Caughie, Virginia Woolf and Postmodernism: Literature in Quest and Question of Itself.Chicago: University of Illinois Press, 1991.
  • Michael Hardt and Antonio Negri, Empire. Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 2000.

「生かさなければならない身体」
―エリザベス・ボウエンのThe Hotelにおける拒食症の表象

慶應義塾大学大学院生 上田敦子

拒食は、少女や若い女性に多くみられる症状である。食べ物を拒むことにより、父権的な社会に反発していると考えられている。これは、肉体を消滅させることにより、精神を救うことができるという考えに基づいている。エリザベス・ボウエンのThe Hotel (1927)には、拒食症の特徴がみられる若い女性、シドニーが登場する。彼女は死にたいと思うが、気持ちを入れ替えて、再出発する。この背景には、第一次世界大戦を機に父権制が揺らいでいたことが挙げられる。シドニーが死にたいと思うようになる過程を考察することにより、若い女性たちは個性的な生き方を求める自由が与えられた中で、新たな苦悩に直面していたことがわかる。

参考文献

  • Glenny, Allie. Ravenous Identity: Eating and Eating Distress in the Life and Work of Virginia Woolf. Basingstoke: Macmillan, 1999.

「労働者教育協会」でのヴァージニア・ウルフの講演
―「斜塔」における聴衆/読者の意義と重要性

東京理科大学非常勤講師 吉田えりか

ヴァージニア・ウルフが観客/読者と作家の関係を重視していたのは明らかであるが、講演のように特定の観客を対象に執筆した場合、観客の存在はテクストにどのような痕跡を残しているのだろうか。

ウルフが「労働者教育協会」で行った講演は、その後、書き直しを経て「斜塔」として、Folios of New Writingに掲載される。その講演原稿と、出版されたテクストには、それぞれの聴衆/読者の性質に応じた強調点や表現の違いが見られる。本発表では、講演原稿と出版原稿との比較を通じて、異なる観客に対するウルフの配慮や期待が、どのようにテクストの差異に反映しているかを検討し、テクストにおける聴衆/読者の重要性を考察する。

参考文献

  • Cuddy-Keane, Melba. Virginia Woolf, the Intellectual, & the Public Sphere. Cambridge: Cambridge University Press, 2003.
  • Daugherty, Beth Rigel. "Readin', Writin', and Revisin': Virginia Woolf's "How Should One Read a Book?" in Virginia Woolf and the Essay. Eds. Beth Carole Rosenberg and Jeanne Dubino. New York: St. Martin's, 1997. 159-75.

『波』における神秘体験―スピリチュアリズムと科学言説

東京工業大学非常勤講師 近藤 章子

「抽象的で神秘的な、目のない本」として構想された『波』は、神秘的な感覚や体験が多くを語る作品である。それを表現する際にウルフの念頭にあったと思われるのは、1848年のニューヨーク州に端を発し、イギリスでは1930年代に最盛期を迎えた近代スピリチュアリズム運動と、ケンブリッジ大学の研究者たちによる心霊研究である。科学技術の発達と同時進行で拡大したスピリチュアリズムはモダニズム文学に影響を与え、ウルフも心霊研究に対する興味という形でそれに反応した。本発表では、この点を踏まえながら、作品における神秘的要素が意味するものについて考察する。

参考文献

  • Johnson, George M. Dynamic Psychology in Modernist British Fiction. New York: Palgrave Macmillan, 2006.
  • Armstrong, Tim. Modernism. Cambridge: Polity, 2005.

第27回日本ヴァージニア・ウルフ協会大会シンポジウム

National Culture と(Step-)Daughterたち
―英国戦間期女性作家を再考する

司会 東京学芸大学准教授 大田 信良
講師 青山学院大学准教授 麻生 えりか
講師 姫路獨協大学准教授 廣田 園子
講師 日本女子大学非常勤講師 前 協子

近年、戦間期あるいは後期モダニズム(late modernism)についての、歴史的見直しや文化論的再検討が盛んになってきたように思われる(Miller、 Light及びMatless など)。旧来のような倫理的価値判断(とそのたんなる転倒)に収斂しがちなファシズム論やそれに対する急進的な異議申し立てとされた専ら家父長制批判をこととするフェミニズムも、あらたに変容しつつあった郊外(あるいはパラアーバン)、(21世紀にはBRICs諸国に出現することになる)ミドル・ブラウ文化・ロウワー・ミドル階級等の問題とともに、それらの問題点やあらたな抵抗・対抗のやり方を探る研究がなされてきている。

特に英国でのこうした動きは、サッチャリズム以降の保守党メジャー政権期の小春日和的な雰囲気を伴ってなされた再調整と包摂、そして、労働党ではあるがいわゆる「第三の道」を「近代性(モダニティ)の諸帰結」のあとに選択したブレア政権期のRule Britannia ならぬCool Britannia―その端的な文化的商品イメージの例は、リチャード・ブランソンのヴァージン・グループや紳士服ブランド、ポール・スミスか―といった90年代の歴史的・文化的状況への、政治的および理論的対応とみなすべきか。モダニズム文学研究からポストモダニズム文化論へ、さらに、ポストコロニアリズム、ゲイ・レズビアン批評等を経て、さまざまなモダニズムその他の政治・文化的運動を、今一度、モダニティの問題として、捉えなおそうとしているのかもしれない。

また日本のウルフ研究においても、戦間期に対する関心が少なからず示されつつあるようで、たとえば翻訳や紹介に目を向けてみても、『三ギニー』やレイ・ストレイチーのThe Causeの翻訳などが出版されたりその計画が予定されているようである。

してみると、本協会大会シンポジウムの企画として、30年代の文学・文化とか女流作家(たとえばエリザベス・ボウエン等)とかといった観点から、新しいウルフ解釈やモダニズム研究へのヒントになるようなものを探る、といったこともたいへん魅力的な案ではあろう。また、『三ギニー』のテクストや解釈を、歴史的・文化的に広いコンテクストにおいて取り上げ、さらなる活発な議論や研究の契機とすることも、提案・実現されてしかるべきものだとも思われる。

しかしながら、本シンポジウムは、まずは、近年ウルフ協会の発表・シンポジウム等でも一度ならず言及されたり取り上げられてきたEstyのモダニズム文学・文化論や『幕間』を中心とするウルフ晩年の諸テクストをめぐる解釈や議論をさらに少しでも持続的に拡張すべく、戦間期におけるnational cultureの構築/への変容という歴史的コンテクストにおいて、ただし、ジェンダーにより大きな重点を置いて、英国女性作家がどのように自らのテクストを産み出したり、またそれによって、あらたに編制されつつあった英国性(Englishness)の表象に参与したりしていたか、という問題を考えてみたい。とりあえず今回は、従来のようにあるいは90年代の作品・作家研究のように、ウルフやボウエン、あるいは、ほかの女性作家を掘り起こすのではなく(たとえばJoannou、Montefionre)、結婚相手 が外国人だといかに「真の」英国文化に対するコミットメントがあったとしても国籍や市民権(citizenship)さらには正当な継承権・正当性を認められることのなかった英国の(Step-)Daughterたちを再考し読み直すこと、と同時に、すでになされつつある研究(たとえばGarrity)に、介入的に関与することを試みたい。

願望を込めた予定としては、麻生さんには、帝国主義やナショナリズム、または、世界大戦等の問題を、通常の順序とはちょっとやり方を変えて『幕間』から『歳月』へ遡行してたどり直すことを試みていただき、また、廣田さんには、推理小説黄金期の女流小説家の、ただしアガサ・クリスティだけでなく、ドロシー・L・セイヤーズの特異な主題をほりおこしていただくことにより、シンポ参加者及びフロアの皆様と一緒に、30年代ウルフの(ポスト)フェミニズム・平和主義の言説につながるような目印をつけることを目指せれば、とも考えている。そして、前さんには、national cultureにおける英国性をめぐって、故国あるいは母国としての英国とその文化の領有と継承の正当性を表象しようと欲望するロマンス―とはいえ、それはウルフと歴史性を共有する(Step-)Daughterたちの誰か、女の書いたテクストということになるだろうが―を論じていただければと思っている。そして、このシンポジウムのなかでは、ファシズムや全体主義といった概念・イメージは(直接論じるというよりは)横目で見ながら、「ポストインペリアル」や「ポスト福祉社会」といった大きな歴史の物語や移行の問題に関わる論点が浮かびあがってくれば、と望んでいる。

Works Cited

  • Esty, Jed. A Shrinking Island: Modernism and National Culture in England. Princeton: Princeton UP, 2004.
  • Garrity, Jane. Step-Daughters of England: British Women Modernists and the National Imaginary. Manchester: Manchester UP, 2003.
  • Joannou, Maroula. Women Writers of the 1930s: Gender, Politics and History. Edinburgh: Edinburgh UP, 1999.
  • Light, Alison. Forever England: Femininity, Literature and Conservatism between the Wars. London Routledge, 1991.
  • Matless, David. Landscape and Englishness. London: Reaktion, 1998.
  • Miller, Tyrus. Late Modernism: Politics, Fiction, and the Arts between the World Wars. Berkeley: U of California P, 1999.
  • Montefiore, Janet. Men and Women Writers of the 1930s: The Dangerous Flood of History. London: Routledge, 1996.
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